■外国語講読(英語・前期)■


〔テーマ〕
 戦後民主主義と水俣病――George (2001)の社会学的解読

〔授業の概要〕
 この授業では,戦後最大の公害事件といわれる水俣病事件の詳細な検討を通じて,「戦後」と呼ばれる日本社会が,公害問題をどのように位置づけてきたのかについて考えてみようと思います。この作業を通じて,戦後民主主義とは一体何だったのか,日本社会にとっての公共性とは何だったのか,考察することを目的とします。
 具体的には,下記の文献を精読し,何とか半期で読破することを目標にします。テクストは,英語で書かれた唯一の水俣病についての包括的な歴史書であり,アメリカにおける日本研究の質の高さを示す優れた研究書です。著者の堪能な日本語によってなされたインタビューと広範な原資料の分析,そしてそれらに基づく透徹した議論を社会学的に読み解くことは,とてもスリリングです。まず日本語の文献で水俣病についての基礎を仕込んだ上で,英文テクストに取りかかり,毎週一章を読んで検討する予定です。詳細については,4月に受講者と相談して決めたいと思います。

〔講読対象文献〕
 
George, Timothy S. (2001) Minamata: Pollution and the Struggle for Democracy in Postwar Japan (Harvard East Asian monographs 194). Cambridge, MA: Harvard University Asia Center. ISBN: 0-674-00785-9 pbk; xxi+385pp.(誤植などの訂正がなされていますので,必ずこのペーパーバック版を用意してください)

〔指導・運営方針〕
この授業は,英語で書かれた優れた研究書を受講者とともに読み解き,その内容について討論するもので,いわゆる語学の授業ではありません。分かりやすく言い換えれば,「専門テーマを持ったゼミで,たまたま扱う文献がすべて英語である」というものです。ですから受講者も,半年間,ゼミで学ぶつもりで履修登録をしてください。
具体的には,全員が指定箇所を読破してきた上で,「レポーター」に概要報告と論点提示をしてもらいます。それをもとに,全員で討論します。討論した内容を「スケッチャー」がまとめて,翌週に配付する,という手順で進める予定です。詳しい説明はガイダンス時にお話しします。受講予定者の顔ぶれが決まったところで,授業の細部について相談したいと思います。

〔評価の方法と基準〕
 学期末に提出してもらうレポートで評価します。通常の授業での発言の質も,当然ながら評価の対象になります。

〔学生に対する希望〕
 想定している受講者は学部3-4年生および大学院生ですが,他大学の学部生・院生といった「もぐり」も想定しています(例年,数名が参加しています)。テーマとの関連で言いますと,下記のようになるでしょう。
標記テーマに深い関心のある学生にとっては,まさにそれをテーマとする「ゼミ」に入ゼミして学ぶのと同じ効果が期待できます。一方,「標記テーマには浅い関心しかないが,大学院受験準備の一環として受講したい」学生にとっては,関連する分野を学べる「効用」が期待できるでしょう。また,このようにある特定の分野を深く学ぶ過程を経験することによって,英文読解力が飛躍的に向上することはまず間違いありません。とはいえ,大学院受験対策という手段と割り切ってしまうと,テーマに深い関心を寄せる受講者(と担当教員)に対して良からぬ影響も出てきますので,「よく知らないテーマであったけれど,一生懸命学んでみたらなかなか面白かったし,意図せざる結果として,受験準備にもなった」という心構えで受講してくださるよう希望します。「もぐり」の受講生は,正規の受講生の学習を支援しつつ,自らが深く学ぶことになるでしょう。