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ゼ ミ 生 |
1999年度鈴木ゼミナール優秀論文
「イニシアチブの移動による日本型流通システムの変化」
田中 辰也
日本の流通システムは世界でも特に異質なものといわれているが、その「日本型」流通システムも現在激しく変動し
つつある。彼は、まず、戦後から高度成長期にかけて成立した「流通系列化」(彼は、これを「製造業者(メーカー)主導の
システム」と理解した)と、そこにおける様々な仕組み、例えば、リベート制や建値制などを「組織の経済学(ミルグロム
+ロバーツ流の)」の分析用具を使って分析した。「建値制」は、製造業者(メーカー)による価格設定であるし、「リベート」
も、小売業者の販売努力を引き出すインセンティブ装置として理解できる。また、製造業者は、他の製造業者と、一つの
販売業者に関して競合すると、自社製品をよりたくさん販売してもらうインセンティブを引き出すために、両製造業者の間
で「ベルトラン型」の(リベート付与)競争が起こってしまい、製品販売によるレントをとられてしまう1)。それを回避する
ため、小売の独立性は保ちつつ「系列的に組織化」する方法をとったことも指摘した。この伝統的な「流通系列化」も
現在変化しつつある、というよりも、別のチャンネルも台頭してきた。それが、彼の論文で言う「小売業主導」の取引関係で
ある。これは、製造業との仕入れ時の交渉においても、小売サイドが仕入れ価格を提示する、言い換えれば、「交渉力」
を増大させている取引関係である。そして、小売業同士(ダイエーやイトーヨーカドー)が自ら価格設定をして消費者を
獲得するゲーム的状況が別の主たるチャンネルとして加わったことを指摘し、このことが「伝統的な流通系列化」と
その下での仕組みに対していかなる影響を与えるかを分析した。本来であれば、局面局面を分析するだけでなく、この
新たなディメンジョンの導入の影響を、統一的なモデルで分析するチャレンジも欲しかった。ゼミで少し触れたホテリング
やサロップ(Salop1979)の立地モデルを応用した分析なども可能であっただろう。また、今後は「エレクトリック
マーケッティング」のチャンネル(これは「ダイレクトチャンネル、ダイレクトマーケッティング」と呼べるだろう。)も有力な
オプションとなるはずで、この物理的に異なる流通チャンネルの並存が、流通の仕組みに対していかに機能するか、
既存の競争へのインパクトはどういったものかなどをも、間接的に考えさせてくれた。以上、分析は不十分なところも多く、
解析的には上手くまとめられていないが、「ゼミの精神に沿った努力賞論文」という形で、優秀論文に推薦したい。
1) 最近の理論的な進展としては、StoleやMartimortらの「複数プリンシパルの理論」がある。それは、情報の
非対称性の下で、複数のプリンシパル(彼女たち)が、共通のエージェント(彼)のインセンティブを、より自分の方に
向けさせるために、インセンティブスキームでお互いに競争する状況を、一般的に分析するものである。しかし、
そこでのアイディアは、国際的なプロジェクトファイナンス(特に途上国への)をはじめ、多くの応用可能性がある。
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